· 

風になった人

自由が丘不動産エージェント(株)タシカの名取です。今日はちょっとセンチメンタルな気持ちになったので、いつもとは違う文章を書いてみました。不動産でもゴルフでもなく、あまりご興味ない方もいらっしゃるかもしれませんが、ご容赦ください。

そのまま揺れる

箱根仙石原のススキの原は有名です。毎年春に野焼きをして真っ黒に焼ける山肌。そこに毎年ススキが生え揃い、秋になると山肌を真っ白に染める。近くで見ても遠くで見ても美しい。

派手さは全くないので、人によっては物足りないかもしれない。極端に言えば「静謐な美しさ」とも言える。

 

案内看板も何もない。あるのは、ただの一本道。ススキの原の真ん中を行って戻るだけという、シンプル極まりない場所。

 

肌の上を滑る程度のそよ風で、ススキの穂は揺れ動く。風のふくままに身を任せる。

 

「意を決する」とか「耐え忍ぶ」とは、まったく逆の姿がそこにはある。

 

あの人は、その姿にきっと何かを重ねていたんだろうと思う。訪れる人が皆、歓声を上げず「綺麗だね」と隣に立つ人に向けて囁く。大切な人と、この美しい時間を共有出来て良かったと、ススキの揺れる音を聞きながら感じられる。

 

疲れた心をほぐす光景が間違いなくそこにある。

 

ただ、何も考えず揺れる穂を見ていると、自分の在り方を考える…と、言いたいところだけれども、何も考えない。ただ「来てよかったなぁ」と思える。

 

そのまま、ただ、揺れる。

凧とラスク

うちの子ども達が凧揚げをしていた時に、風が吹かず、中々凧が上手く上がらない時がありました。

 

何度も何度も、走っても地面を引きずるのが続いていました。

 

何度目か、駆け出したその時に ”ふぅっ” と風が吹き、凧がふわっと宙に浮きました。子ども達はそれをみて 「わぁっ」 と、笑顔になって「祖父ちゃんが来てくれたんだ!!」と言いました。

 

そう、我が父はどうやら ”風” になったようです。

 

ススキの原に吹く風は、優しいような気まぐれなような自分勝手なような、不思議な風でした。まさに亡くなった親父のようでありました。

 

「いい風だなぁ」と、つぶやくと娘が「ここ、好き~来てよかったね♪」と。ススキはそれを喜んだかのように風に揺れて「サァッ」と音を立てていました。

 

ススキの原の横には、小さなラスク屋さんがあります。2階にはカフェがあって、そこの奥の席を父は好んで利用していたようです。生前、両親と妻と一緒にそこを訪れたことがありました。どちらかというと和風を好み、下駄など履いて出かけることもある父だったのですが、なぜかラスク屋さんのカフェ。それも洋館風の建物。

 

お気に入りなのは不思議だなぁと思っていたのですが、ススキの原を眺めていて何故だかわかった気がしました。

 

器用なような不器用なあの父は、きっと母に言い尽くせぬ思いがあったんでしょう。

 

大切な人を連れていくデートにピッタリなススキの原。そこの横に小さく建つラスク屋さんのカフェ。きっと小説のワンシーンのようなその場所で、言葉ではない何かを感じて欲しいと願っていたはずです。

 

ラスク屋さんで、子ども達が食べたソフトクリームは、ものすごく丁寧に作った味がしました。ラスクは他ではない味がたくさんあり、どれも絶品でいつも何を買うか迷ってしまいます。

 

父と母が座ったその場所から、母にテレビ電話をしたけどタイミング悪く母は電話に出ませんでした。父の想いは未だ、その場所にとどまって「まぁ、また来てくれよ」って言ってそうな気がしました。

 

帰りの車で「アイスもラスクも最高だったね。また来ようね!」と、言う息子。私は凄く満たされた気持ちになりました。それと同時に、俺は親父にそういう想いをさせてやったかなぁ…と。

 

それにしても「祖父ちゃんの足跡をたどる」のが結構好きという家族。生前よりも、一緒にいる気がする親父という生き物はとっても不思議です。幸せだね、親父さん。

 

生きてるうちに、もっと幸せにしてやりたかったけどなぁ~。

 

自由が丘不動産エージェント㈱タシカ 

代表取締役 名取確

コメントをお書きください

コメント: 2
  • #1

    遠藤隆之介 (金曜日, 02 10月 2020 03:33)

    ブログを読み、あたたかい小説を読んだ後のような穏やかな気持ちになりました。

    私見ですが、名取さん、入退院を経て、より素敵な雰囲気を纏われているように感じておりました。

    何というか、ギラギラしたものが昇華されて、より優しさと包容力に溢れるオーラになったというか…

    これからも、素敵な家族の風景が増えていくよう、心より願っております。

  • #2

    名取確 (金曜日, 02 10月 2020 15:57)

    遠藤さん、温かいメッセージをありがとうございます。拙い文章ですが、遠藤さんの心が穏やかになってくれたならそれだけでも意味があったなと思えます。入院前から、ギラギラはもう大分昇華されてるつもりでしたが、まだ残ってましたか(笑)周りの目が正しいのだと思いますから、優しさ・包容力がもっと似合う男になるべく頑張ります!
    遠藤さんみたいに、愛に包まれて生きるときっと色々見えるんだろうなぁ~。